五臓六腑の役割 ー五臓編ー
東洋医学では、人体を構成するものとして臓腑を中心に考えていて、西洋医学の内臓とは異なり人体の生理作用の源であり、精神活動の中心でもあります。臓腑・経絡などは、気・血(けつ)・津液(しんえき)に頼って生理活動が営われています。
五臓とは、肝・心・脾・肺・腎(心包を加えて六臓とすることもある)をさし、六腑は、胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦をさします。
五臓の特性は、精気(主として神気:神気とは生命活動を支配・統制している気)を内に蔵している実質器官ということであり、生命活動の中枢となって働いています。これに対して六腑は、中空器官で、飲食物を受け入れ、これを消化して次の器官に送るとともに、水分の吸収・配布・排泄に関与しています。このことを踏まえて各々の臓腑の役割を東洋医学の観点で簡単に説明していきます。まずは、五臓から。
1 肝(かん)
肝は、魂を蔵し、判断力や計画性などの精神活動を支配するといわれています。
肝がしっかりしていれば、内外の変化にすばやく対応して適切な行動がとれるが、不健全だとイライラしたり、逆におどおどしたりします。
また、肝は、血液の貯蔵庫となり、身体各部の血流量を活動状況に応じ調整します。
夜横になると眠くなり、やがて眠りに就くのは、多量の血が肝に還流し、脳にいく血が少なくなるからで、肝の働きが衰えると、この働きがうまくいかなくなり安眠できなくなります。
安静時には手足の血が少なくなり、肝に貯蔵されますが、動き出すと、肝に貯蔵されている血を速やかに手足にほどよく分配します。この働きが正常であれば、手足の筋肉は力強く運動し、頭に血が上りすぎることもありません。肝の働きが正常でなくなると、血の逆上によって、頭痛、めまい、耳鳴りなどを起こしたり、反対に、上部への血の配分が悪くなると、顔面蒼白、めまい、難聴などの症状が出ます。婦人の月経の異常も、肝の病変により現れることが多いといわれます。
2 心(しん)と心包(心包絡)(しんぽう)
心は神を蔵し、五臓六腑を統括します。
神は、人間の生命にとって最も重要で、神がなくなれば死亡するといわれています。心が蔵する神が安定していると、状況に応じた的確な行動が可能であり、生体機能も健全に維持されます。すなわち、神は、知覚・記憶・思考・意識・判断など、全ての精神活動を支配し、その中心となっているといえます。さらに神は、五臓六腑が調和を保って活動することを主っていて、これによって動作・言語・表現などの意識的活動や、心拍動・呼吸・消化吸収・排泄などの無意識的活動が適切に行われます。ストレスや過労などによって、神が不安定になると、意識的活動・無意識的活動に不調和が生じます。
また、心は血脈を主るともいわれ、脈を介して血を全身にくまなく運行させ、臓腑や皮肉筋骨などの身体諸器官の活動を支えます。心がしっかりしていれば、脈拍も規律正しく、力強く働き、血のめぐりも滑らかになり、心の機能が損なわれると、脈拍に異常が現れ、血のめぐりも悪くなります。ゆえに、心の状態は顔色にも反映されます。心気が充実していれば顔の血色が良く、ツヤがあります。心気が不足していれば、顔が白っぽく、ツヤがなくなります。
そして心包とは、心がもっとも信頼する器官で、心を包んで保護し、心が滅多なことで損傷されることがないように、外衛となり心に代わって邪を受け守る働きをします。東洋医学では、虚血性心疾患など、現代医学で心臓病としているものの多くを、心包絡の病と考えています。
3 脾(ひ)
脾は、胃と一体になって働き、飲食物の消化や吸収を司り、後天の精(人体で活動する営気(えいき)・衛気(えき)・宗気・津液・血の素)を取り出し、それらを肺へ送り、気・血・津液に変化して全身に送り出します。脾の働きによって吸収・配布される栄養物には、営気が蔵され運行を司ります。営気が血とともに脈中を巡ることにより、血が脈外に漏れることを防ぎ、また全身に栄養を与えて活力のもととなります。特に肌肉に行きわたらせて張りを与えます。脾がうまく働かなくなると、腹痛、下痢など、消化、吸収の異常が生じ、元気がない、全身倦怠、出血しやすいなどの症状のほか、肉付きが痩せ、四肢無力となる症状も現れます。
また、口と唇は脾胃と密接な器官であるため、脾の働きが不調になると食欲異常や、食べても美味しく感じず、唇やその周囲、口内が荒れたりできものができるなどの症状が生じます。脾は津液を作り出し全身に輸布する働きから、不調になると津液の不足や停滞が起こり浮腫の原因にもなります。
4 肺(はい)
肺は気を主り、心を扶(たす)けて、臓腑や器官の働きを調整します。
心が血を、肺が気を、すなわち心肺あいまって気血を全身にめぐらせることにより、全ての臓腑・器官・組織の生理活動が営まれるということです。肺の働きが正常であると、呼吸は深くゆったりと正しく行われ、全身の気が充実し、発声もツヤがあり力強くなり、不調であれば、呼吸の異常(喘、咳など痰の停滞や、少気、短気など)や、発声の異常(か細い、枯れ声)などが起こります。
肺は、衛気と津液を巡らせることにより、皮毛に潤いを与え、これを養います。働きが正常であれば、皮膚は潤いを持つとともに、環境の変化に素早く対応して収縮・弛緩します。正常でなくなると、皮膚の枯燥や、湿疹、浮腫などが現れます。
肺は鼻に開竅していて鼻を通して清気を体内に取り入れ、古くなった濁気を排出します。そして臭いをかぎわけます。涕(はなみず)が適度に流れることにより、鼻内を潤して清潔を保ち、異物を中に入れません。働きが正常でなくなると、涕の分泌異常が起こり、鼻が詰まったり乾いたりし臭いも分からなくなります。
5 腎(じん)
腎は、精を蔵し、生命力の根源である原気をもたらします。
父母から受け継いだ先天の精(生命の素)は、腎に内蔵されています。この精は、飲食物から造られる後天の精によって、常に補充されていて、生命力と、成長、生殖力の根源になります。この精が腎により活性化されたものが元気(基礎活力)です。ゆえに腎精が充実していれば、元気も盛んで、活動的で、疾病にもかかりにくく、また、根気がいる細かい作業もやり通す力も湧いてきます。腎気が衰えると元気がなくなり、活動が低下し、身体が冷えます。生殖能力も低下したり、疾病にかかりやすく、治りにくくなったり、さまざまの老化現象を呈します。
腎は、津液を主り、全身の水分代謝を調節します。
働きとしては、脾が胃において、飲食物から分離した津液を肺に送ります。肺は全身に津液を散布します。不要となった津液を腎が回収し、処理します。このような流れで腎が津液全体を調整しています。この水分調節がうまくいかなくなると、浮腫・尿閉や、頻尿・下痢などの症状が現れます。
腎精は、髄(ずい)を育成します。髄は骨の中にあり、骨に栄養を与えます。腎が正常であれば、髄が充実し骨も歯も丈夫で、また、髪にも反映するので、黒々と艶やかでよく伸びます。腎精が不足したり、老化により衰えると、骨が脆くなる、腰が曲がる、白髪・脱毛などの症状が現れます。
また、腎は耳と二陰(前陰=小便口、後陰=大便口)に開竅していて、耳を通して外界と交流します。水分調節した結果、大小便となって体外に排出します。ゆえに、腎精が不足したり衰えると、難聴、耳鳴りなどの症状が現れたりします。大小便の異常は、腎の異常でもあります。